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東京高等裁判所 平成9年(行コ)59号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対してした昭和四七年五月四日付け懲戒免職処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、自衛官として在職中にいわゆる反戦行動をしたことを理由に自衛隊法上の懲戒免職処分を受けた控訴人が、右懲戒免職処分は憲法違反であって無効であるなどと主張して、その処分の取消しを求める事案である。

二  争いのない事実

1  控訴人は、昭和四五年一一月二四日、航空自衛隊二等空士に任用され、昭和四六年六月九日、福岡県遠賀郡〈以下略〉所在のα基地にある航空自衛隊第二高射群第五高射隊所属となり、同年一〇月一日、一等空士に昇任した。

2  控訴人は、昭和四七年四月二七日午後四時ころ、陸上自衛隊第四五普通科連隊所属一等陸士A、陸上自衛隊第三二普通科連隊所属一等陸士B、陸上自衛隊第二特科群所属一等陸士C、陸上自衛隊富士学校偵察教導隊所属一等陸士D及び元自衛官のE(以下、各人について名字のみで表示する。)と共に、防衛庁長官に対し自衛隊の沖縄派兵の中止等を要求するため、E以外は自衛隊の制服を着用の上、東京都港区〈以下略〉所在の防衛庁正門に赴き、警備員に防衛庁長官との面会を求めたが、面会することができなかったので、控訴人ら六名は正門の外側で正門に向かって一列横隊に並び、Aが全員を代表して、自衛隊沖縄派兵の中止等を訴える内容の、全員の記名のある原判決添付別紙二の「要求書」を読み上げた後、右「要求書」及びこれとほぼ同趣旨の原判決添付別紙三の「声明」と題する文書を警備員に手渡して立ち去った。

3  控訴人は、昭和四七年四月二八日午後八時ころ、東京都港区所在のβ公園で開催された「四・二八沖縄返還協定粉砕、自衛隊沖縄派兵阻止」等を掲げた中央総決起集会(以下「四・二八中央総決起集会」という。)に前記五名と共に参加し、同集会において、Dが前記「要求書」を、Cが前記「声明」をそれぞれ読み上げた上、控訴人が、航空自衛隊で民間機を仮想敵機に見立てた訓練が行われていること、また、自衛隊で隊員を社会から隔離してただひたすら上官の命令に従う人間に作り変える教育が行われていることなどを内容とする演説をした。

4  控訴人は、昭和四七年四月二三日午前八時から同月三〇日午後一〇時までの間の年次有給休暇を承認されていたところ、帰隊時刻である同月三〇日午後一〇時を超えて同年五月三日まで、所属長の承認を受けることなく帰隊しなかった。

5  航空自衛隊第二高射群司令は、昭和四七年五月四日付けで控訴人を懲戒免職処分にした(以下、この処分を「本件懲戒免職処分」という。)。

控訴人に対する同年六月三日付け「懲戒処分説明書」(乙第一〇号証の二)に記載された本件懲戒免職処分の事由と適条は次のとおりである。

(一) 違反事実

(1) 被処分者は、昭和四七年四月二七日一六時ころ、陸上自衛隊第三二普通科連隊所属一等陸士Bほか三名の自衛官及び部外者Eと共に、自衛隊の沖縄配備の中止等の要求を行わんとして防衛庁長官に面会を求め、正門の守衛と押し問答の上、これが実現不可能とみるや、一方的に正門付近にこれら五名と共に一列横隊に並び、不特定多数の者が往来し、かつ、集合していた場において、陸上自衛隊第四五普通科連隊所属一等陸士Aが、沖縄配備の中止等を訴える内容を有し、全員の記名のある「要求書」を読み上げた後、当該「要求書」と同趣旨内容の「声明」なる文書を守衛に手交して立ち去った。

(2) さらに、被処分者は、昭和四七年四月二八日二〇時ころ、東京都港区所在の「β公園」で開催された「四・二八沖縄返還協定粉砕中央総決起集会」に前記五名とともに参加し、同集会場に設置された演壇上に制服を着用して立ち、その際、同会場の多数の参集者を対象として、当該五名中の一人である陸上自衛隊富士学校偵察教導隊所属一等陸士Dが前示「要求書」を、陸上自衛隊第二特科群所属一等陸士Cが同「声明」をそれぞれ読み上げ、その後、自衛隊の沖縄配備等政府が決定した政策に反対又はこれを阻止することを訴え、あるいは自衛隊を誹謗する等の内容を有する演説を行った。

(3) また、被処分者は、昭和四七年五月一日から同月三日までの間、所属長の承認を受けることなく勤務を離脱した。

(二) 適条

自衛隊法第四六条第一号及び第二号

6  控訴人は、昭和四七年七月一日、本件懲戒免職処分について、防衛庁長官に対し審査請求をしたが、請求後三か月を経過しても裁決がされなかった。

三  争点及びこれについての当事者双方の主張

1  懲戒事由該当性の有無

(一) 控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為について

(二) (被控訴人の主張)

(1) 自衛隊は、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」ものであり(自衛隊法(以下、単に「法」という。)第三条第一項)、その実力組織としての特性から、行政組織の中でも特に政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負うものである。換言すれば、自衛隊は、正当な手続過程を経て決定された国の政策を忠実に遂行すべき責務を負っているということができる。そして、自衛隊を構成する自衛隊員は、服務の本旨(法第五二条)にのっとり公正誠実に職務を遂行する義務を負う(法第五六条、第五七条)とともに、職務遂行中であるか否かを問わず、隊員としての品位、信用を傷つけ又は自衛隊の威信を損なう行為をしてはならない義務を負っているのである(法第五八条)。

しかして、法第四六条第二号にいう「隊員たるにふさわしくない行為」とは、自衛隊員の国民全体の奉仕者としての地位及びわが国の防衛というその職務の特性から導き出される、隊員の服務の本旨に反する行為ないし国民の期待する隊員としてのあるべき姿に反する行為であって、自衛隊の規律又は秩序の維持に関連を有する行為を指すものということができる。そして、このような観点からすれば、通常の判断能力を有する自衛隊員が社会通念に照らして判断すれば、具体的な場合に当該行為が「隊員たるにふさわしくない行為」に当たるか否かはおのずから明らかであって、その適用について恣意的、差別的な解釈の入る余地はない。勤務時間外であっても、自衛隊員が国の政策を批判することは、その内容、手段、態様によっては、服務の本旨に違背し、国民の自衛隊及び自衛隊員に対する威信、信用を傷つけることにもなりかねないのであるから、このような場合には、法第四六条第二号の「隊員たるにふさわしくない行為」に該当するものとして、懲戒処分の対象となることは当然である。

(2) 控訴人らが防衛庁正門付近で読み上げた前記「要求書」の内容は、自衛隊の沖縄配備及び立川移駐について、事実を誇張し、歪曲したり、事実に反するものであり、その中で要求している事項は、自衛隊の任務及び自衛隊員の服務の本旨や遵守すべき義務とはおよそ相容れないものである。また、前記「声明」の内容は、正当な手続を経て決定された自衛隊の沖縄配備等の国の政策につき、一方的かつ過激な表現をもって公然と非難するとともに、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにしたものである。さらに、控訴人が四・二八中央総決起集会において演説した内容は、自衛隊に対する根拠のない誹謗中傷を交えながら、政府の決定した自衛隊の沖縄配備等の国の政策に理由のない非難を加えて反対し、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにしたものである。

(3) 控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為は、自衛隊の制服や官職を利用し、それによる対外的な宣伝効果を意図したものであって、到底真摯かつ誠実な政策批判ないしは処遇改善の要求行為とは言い難いものであり、その実質において自衛隊に対するいわれのない誹謗中傷である。

(4) したがって、控訴人の右各行為が法第四六条第二号の「隊員たるにふさわしくない行為」に該当することは明らかである。

(控訴人の主張)

(1) 国家公務員法第八二条第三号は「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」を、地方公務員法第二九条第一項第三号は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」をそれぞれ懲戒処分の対象とし、道徳的、社会的に非難されるような「非行」という絞りをかけているのに対し、法第四六条第二号は、単に「隊員たるにふさわしくない行為」というだけであるから、国家公務員あるいは地方公務員と比較して自衛隊員を著しく差別する規定である。右規定を憲法第一四条の平等原則に反しない規定として解釈するためには、「隊員たるにふさわしくない行為」とあるのを「隊員たるにふさわしくない非行」と解釈しなければならない。

(2) 控訴人が防衛庁正門前において行った行為並びに四・二八中央総決起集会において行った行為は、いずれも政府の決定した違法な自衛隊の沖縄派兵及び立川移駐の中止を要求し、さらに自衛隊員の基本的人権の確立を求めたものであって、隊員としての要求を極めて真摯に訴えたものであり、これが「非行」に該当しないことは明らかである。

(3) 自衛隊の沖縄派兵は、敗戦以来二七年間米国の占領下に置かれ米国のアジアにおける最大の基地として機能してきた沖縄に自衛隊を常駐させるものであって、実質的には自衛隊の大規模な部隊の配置換えに匹敵するから、国会において法改正の手続をとらなければならないものであったにもかかわらず、故意に当初の派遣部隊の規模を小さくして法改正手続を必要としないかのように合法的にカモフラージュして実行されたものであり、わが国の自衛隊法制並びに憲法体制そのものを揺るがす悪質な憲法違反行為である。

また、自衛隊の立川移駐については、当時の阿部行藏立川市長が反対の意思を表明し、立川市議会も反対の決議をし、立川市が実施した調査結果によると、市民の八二パーセントがこれに反対していたのに、これらを一切無視して昭和四七年三月七日に抜打ち的に自衛隊の立川移駐が強行された。

したがって、控訴人が自衛隊の沖縄派兵及び立川移駐に反対することは、まさに正当な行為であり、これが「非行」に当たらないことは明らかである。

(二) 控訴人の職務離脱行為について

(被控訴人の主張)

控訴人は、所属長の承認を受けることなく、帰隊時刻である昭和四七年四月三〇日午後一〇時を超えて同年五月三日に至るまで帰隊せず、理由のない欠勤をしたもので、控訴人の右行為は、自衛官の営内居住義務(法第五五条、自衛隊法施行規則第五一条)及び隊員の職務遂行の義務(法第五六条)に違反するから、法第四六条第一号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」に該当することは明らかである。

控訴人が帰隊しなかった理由として主張する暴行等のおそれは何ら根拠がない。また、休暇の延期を申請しても、その承認を得ない以上、帰隊しなかったことの正当事由となるものではない。

(控訴人の主張)

控訴人が休暇の延期(昭和四七年四月三〇日午後一〇時から同年五月三一日午後一〇時まで)を所属長に申し出ていたのに、所属長は殊更その承認をしなかった。

また、当時、自衛隊の方針に反する考え方を主張したり、あるいは自衛隊員の人権擁護を主張する者に対しては、隊内において一種のリンチが加えられる状況にあり、控訴人がそのまま帰隊したならば激しいリンチにさらされたであろうことは十分に予測されたことであるから、控訴人が三日間帰隊しなかったという外形のみを取り上げて、営内居住義務違反及び職務遂行義務違反として、法第四六条第一号に該当すると判断したのは、法の解釈適用を誤ったものである。

2  憲法第九条違反の有無

(控訴人の主張)

自衛隊は、憲法がその保持を禁じた「陸海空軍その他の戦力」に該当することが明白である。憲法を自衛隊が蹂躙するとき、これに対する解体闘争なかんずく最も効果的な自衛隊内におけるそれが大規模に行われなければならない。隊内外において反軍闘争なかんずく自衛隊解体闘争を行った自衛官すなわち反戦自衛官が、自衛隊に対してかかる闘争を行ったゆえに自衛官たる地位を剥奪されてはならないのである。すなわち、反戦自衛官なるがゆえに自衛隊から放逐する処分は、自衛隊の違憲性を助長する行為にほかならず、憲法第九条に違反するものである。

(被控訴人の主張)

控訴人は、本訴において、自衛隊法に基づく自衛隊員としての身分の回復を求めているのであるが、それは、当然に自衛隊法が合憲、有効であることを前提としてのことである。ところが、他方で控訴人は自衛隊法は憲法第九条に違反して無効であるというのである。このように、控訴人の主張は明らかに矛盾しており、主張自体失当といわなければならない。

3  憲法第一六条違反の有無

(控訴人の主張)

控訴人が防衛庁正門付近で一〇項目の要求を掲げて防衛庁長官に面会を求めた行為は、憲法第一六条で保障されている請願権の行使である。また、請願したことを発表し報告することも、請願権の保障に含まれると解すべきであるから、控訴人が四・二八中央総決起集会に参加し、発言し、演説を行った行為は、前日の右請願権行使についての報告と考えるべきである。

控訴人は請願をしたことによって本件懲戒免職処分を受けたのであるが、かかる処分は、憲法第一六条が「何人もかかる請願をした為にいかなる差別待遇を受けない」と定めていることに違反し、無効である。

(被控訴人の主張)

前述のとおり、控訴人らが防衛庁正門付近で読み上げた前記「要求書」の内容は、自衛隊の沖縄配備及び立川移駐について、事実を誇張し、歪曲したり、事実に反するものであり、その中で要求している事項は、自衛隊の任務及び自衛隊員の服務の本旨や遵守すべき義務とはおよそ相容れないものである。また、その手段方法は、対外的な宣伝効果を意図したものというほかないから、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為を請願権の行使とみることはできない。さらに、四・二八中央総決起集会において控訴人らが右「要求書」を読み上げるなどした行為について、前日の請願権行使についての報告とみることはできない。

4  憲法第二一条違反の有無

(控訴人の主張)

控訴人が四・二八中央総決起集会おいて行った演説は、憲法第二一条が保障する言論表現の自由に含まれるものであるから、これをとらえて懲戒免職処分にしたのは同条に違反する。

(被控訴人の主張)

自衛隊員の表現の自由に対し必要かつ合理的な制限を加えることは、憲法第二一条の許容するところであり、控訴人が四・二八中央総決起集会において行った行為は、自衛隊員である控訴人が、その制服や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙って、国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにしたものであって、本来政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため職務の効率的で安定した運営が阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策の遂行にも重大な支障を来すおそれがあるものである。しかも、右各行為におけるような表現で自衛隊を公然と誹謗、中傷することは、隊員相互間の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものといわざるを得ない。このような事態の重大性に鑑みると、控訴人を懲戒処分に付することは、その表現の自由に一定の制約を加えることになるが、それは隊員の身分を保有する限りにおいて課せられた制約にすぎず、右の弊害の重大さと比較すれば、利益の均衡を失するものとはいえず、憲法第二一条に違反するものとはいえない。

5  憲法第一九条違反の有無

(控訴人の主張)

本件懲戒免職処分は、控訴人の思想自体を問題とし、それを忌み嫌い、その思想の持ち主である控訴人を自衛隊から排除するために行われたものであるから、憲法第一九条に違反して無効である。

(被控訴人の主張)

本件懲戒免職処分は、控訴人の思想自体を懲戒の対象としたものではなく、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為という、外部に表示された行為を対象とするものであって、憲法第一九条に違反しない。

6  憲法第一四条違反の有無

(控訴人の主張)

法第四六条第二号は、「隊員たるにふさわしくない行為」があった場合を懲戒処分の対象とし、国家公務員法第八二条第三号の「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」や地方公務員法第二九条第一項第三号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」の規定と比べて処分対象の範囲を拡大し、同じ公務員の中において不合理な差別をしている点において、憲法第一四条に違反し無効である。また、控訴人が職務を離脱したのはわずか三日間であり、これをもって懲戒免職処分にしたのは、一般公務員の場合に比べて著しく平等に欠けるものであって、憲法第一四条に違反する。

(被控訴人の主張)

自衛隊の任務(法第三条)及び組織の特性に鑑みると、一党一派の主義主張に偏することなく、その与えられた任務を適正に遂行することが必要不可欠であって、これによって、国民全体の共同の利益が確保されることになるというべきであるから、このような国民全体の共同の利益を守るため、自衛隊員という身分を有する者の行動に一定の合理的制約を加えることは、何ら憲法第一四条に違反するものではない。

7  憲法第三一条違反の有無

(控訴人の主張)

本件懲戒免職処分は、控訴人に一切の弁明の機会を与えずに行われたものであり、また、懲戒免職処分という結論を早急に出すために、控訴人の弁明する権利が侵害されることを知りながら、殊更手続を急いで結論を出したという二点において、憲法第三一条の適正手続の保障に違反するものである。

(被控訴人の主張)

憲法第三一条は直接には刑事手続に関するものであり、行政手続について全面的に適用があるとは解されない上、本件のように相手方の所在が不明のようなやむを得ない場合にまで、告知・聴聞の手続により弁明の機会を与えることを要求するものではない。

8  自衛隊法施行規則第八五条第二項違反の有無

(控訴人の主張)

控訴人の規律違反の事実は明白であるとはいえず、また、控訴人が代理人として指定したR弁護士を通じて控訴人と連絡することが可能であり、控訴人の所在が不明であったとはいえないから、本件懲戒免職処分は、自衛隊法施行規則(以下、単に「施行規則」という。)第八五条第二項の要件を充たしておらず、違法である。

(被控訴人の主張)

控訴人の規律違反の事実は明白で争う余地がなく、また、社会通念上相当と考えられる所在調査を行ったにもかかわらず、控訴人の所在が不明であったため、施行規則第八五条第二項の「当該隊員の所在が不明のとき」に該当するものとして、本件懲戒免職処分の手続が進められたのであって、その点に何らの違法もない。なお、防衛庁の職員・警備員がR弁護士から控訴人の代理人である旨の告知を受けた事実はないので、R弁護士を通じて控訴人の所在を確認しなかったことをもって、懲戒処分の手続に違法があったとはいえない。

第三当裁判所の判断

一  本件懲戒免職処分に至る経緯及び懲戒事由について

前記第二の二の争いのない事実に、証拠(甲第二四、第二五号証、第八一ないし第八七号証、第九三、第九四号証、乙第一〇号証の一、二、第一九号証の一ないし四、第二〇ないし第二三号証、第三一号証、原審における控訴人本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  昭和四四年一一月二一日、当時の佐藤首相とアメリカ合衆国ニクソン大統領との会談により、二年後の昭和四七年五月一五日に沖縄の施政権を我が国に返還する合意が成立した。右施政権返還に先だって、昭和四六年六月二九日、防衛庁久保防衛局長とカーチス在日米国大使館沖縄交渉団主席軍事代表との間で、「日本国による沖縄局地防衛債務の引受けに関する取極」(いわゆる久保・カーチス取極)が結ばれ、その中で、我が国が引き受ける防衛債務の内容、引受け時期及び自衛隊の部隊を配置する施設等が明らかにされた。

自衛隊の沖縄配備計画は、右取極所定の基本方針に沿って検討され、昭和四七年四月一七日の国防会議において、同年五月一五日の沖縄復帰に当たり準備要員として自衛隊員約一〇〇名をあらかじめ派遣し、復帰日以後、施設の引継ぎ及び維持管理等に当たらせること、同年一二月末を目処として、若干名の陸上自衛隊員、海上自衛隊員及び航空自衛隊員を逐次配備することなどを内容とする配備計画が決定され、この計画は同年四月一八日の閣議において了承された。

2  他方、昭和四六年六月二五日の日米合同委員会において、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づいてアメリカ合衆国が使用を許されていた施設である立川飛行場を日米両国で共同使用する旨の合意が成立し、同月二九日、閣議において、陸上自衛隊東部方面飛行隊等が同飛行場をアメリカ合衆国軍隊と共同使用することが決定された。昭和四七年一月二一日、閣議において、江崎防衛庁長官は、立川飛行場へ年度内に部隊を移駐すること、その日時等は防衛庁長官に任せてほしい旨報告し、閣議の了解を得た。そして、同年三月七日から八日にかけて、訓練部隊の立川飛行場への移動が行われた。

3  控訴人は、自衛隊員として訓練を受けている過程で、自衛隊においては隊員に対する非人間的な教育・訓練や取扱いが行われているという疑問を抱くようになり、いわゆる反戦運動家との接触を通じて、政治問題への関心を強めるようになった。そして、自衛隊の沖縄配備についても徐々に関心を高め、沖縄配備は沖縄への「派兵」であるからこれに反対すべきであるとの考えを固めるに至り、同様の考え方に立って活動していた「反軍行動委員会」の活動家らとの意見交換を通じて、昭和四七年三月ころには、同年四月二八日に予定されていた「沖縄デー」を機に、意見を同じくする他の「反戦自衛官」らと共同して、直接防衛庁長官に対し自衛隊の沖縄配備や立川移駐に反対する意思を表明するとともに一般国民に対してもアピール活動を展開する計画を立てるに至った。

そして、控訴人は、同年四月一九日ころ、結婚相談のための帰省を理由として同月二三日午前八時から同月三〇日午後一〇時までの間の年次有給休暇を申請し、その承認を得て、同月二三日にα基地を出発し、前記「反軍行動委員会」の活動家の紹介により、大阪市内で陸上自衛隊第四五普通科連隊(京都大久保駐とん地)所属のAに会い、翌二四日は、Aと上京して、東京都内のホテルで陸上自衛隊第三二普通科連隊(市ヶ谷駐とん地)所属のB、陸上自衛隊第二特科群(仙台駐とん地)所属のC、陸上自衛隊富士学校偵察教導隊(富士駐とん地)所属のD及び元自衛官のEと会い、同月二五日と二六日の両日をかけて、六名で行動計画を立てる一方、前記「要求書」及び「声明」を作成した。

4  昭和四七年四月二七日午後、右のとおりそれぞれの部隊に所属している現職の自衛官である控訴人、A、B、C、D及び元自衛官であったEは、E以外は自衛隊の制服制帽を着用の上、防衛庁の近くの東京都港区〈以下略〉所在の俳優座において報道関係者を集めて記者会見を行い、防衛庁長官に対し自衛隊の沖縄派兵中止等の要求書を提出することなどを説明した後、防衛庁長官に対し自衛隊の沖縄派兵の中止等を要求するため、同日午後四時ころ、多数の報道関係者が控訴人らに同行しているのを認識しながら、右俳優座から徒歩で防衛庁正門に赴き、警備員に対し防衛庁長官との面会を求めた。そして、正門に駆け付けた警備第二係長Hらと押し問答を繰り返したが、門内に入ることも防衛庁長官に面会することもできなかったことから、控訴人らに同行して来た報道関係者や通行人らが多数集っている中で、控訴人ら六名は正門外側で正門に向かって一列横隊に並び、自衛隊の沖縄派兵の中止等を訴える内容の、全員の官職、記名のある前記「要求書」をAが全員を代表して読み上げた後、右「要求書」及びこれとほぼ同趣旨の前記「声明」を警備員に手渡して立ち去った。

5  控訴人の懲戒権者である第二高射群司令Iは、昭和四七年四月二七日午後四時二〇分ころ、航空幕僚監部人事教育部人事課から、同日の控訴人らの防衛庁正門付近における行為に関連して控訴人の所在の問い合わせを受け、第五高射隊に調査を指示した。この指示を受けた第五高射隊長三等空佐Jは、直ちに控訴人が前記のとおり休暇中であることを報告するとともに、控訴人の所在を確認するため、休暇中の連絡先である「滋賀県高島郡〈以下略〉」の控訴人あてに帰隊を促す電報を発信した。この後、航空幕僚監部人事教育部長から、「本人確認のため顔見知りの者を至急上京させよ」との指示があり、I司令は、J隊長、第五高射隊射統小隊長二等空尉Kら四名を空路上京させた。

J隊長以下四名は、翌二八日午前二時半ころ、東京都港区〈以下略〉所在の航空幕僚監部人事教育部に出頭し、前日の防衛庁正門付近における現場写真により、防衛庁長官との面会を求めた自衛隊員の中に控訴人がいることを確認し、また、同日の新聞報道により、控訴人が四・二八中央総決起集会に参加する予定であることを知り、控訴人を説得して帰隊させるため、同日午後五時過ぎころ会場であるβ公園に出向いた。

6  控訴人は、昭和四七年四月二八日、前記のとおり現職の自衛官であるA、B、C、D及び元自衛官のEと共に、東京都港区所在のβ公園において開催された全国各県反戦青年委員会代表者会議、関東叛軍行動委員会代表者会議、入管体制粉砕東京実行委員会共同主催の「四・二八沖縄返還協定粉砕、自衛隊沖縄派兵阻止、日帝の釣魚台略奪阻止、入管二法粉砕中央総決起集会」(四・二八中央総決起集会)に参加し、E以外の五名は自衛隊の制服制帽を着用して、同日午後八時三〇分ころ、六名全員が同集会場に設置された演壇に立ち、同集会の多数の参集者に対し、全員を代表してDが前記「要求書」を読み上げ、次いでCが全員を代表して前記「声明」を読み上げ、その後、控訴人、A、B及びEがそれぞれ自衛隊の沖縄派兵等に反対又はこれを阻止することを訴える演説をした。その際、控訴人は、「私はナイキミサイルのレーダー操作手として勤務しているが、毎日のように民間機を仮想敵機と見立てて要撃訓練を行っている。」「自衛隊では、隊員を社会から隔離して、考える時間や資料を与えず、ただひたすら上官の命令に従う人間に作り変える教育が行われている。」「このようにして素直なロボットに作り変えられるがゆえに、全日空機の撃墜という大量人民虐殺があったと思う。」「私は沖縄県民や本土の労働者、学生、人民と連帯して戦う。」「社会からの隔絶、治安出動訓練に反対し、われわれ自衛官こそが沖縄派兵阻止の先頭に立って戦わなければならない。」などと演説した。

7  β公園に出向いていたJ隊長らは、右6のように、控訴人が、Eらと共に演壇に立ち、同集会の多数の参集者に対し、右の内容の演説を行ったことを目撃したが、控訴人と接触することはできなかった。

8  控訴人ら五名の現職の自衛隊員が防衛庁正門付近において行った行動及び四・二八中央総決起集会で行った演説等については、昭和四七年四月二八日から同月三〇日にかけて新聞各紙で報道されたほか、同月二八日の参議院予算委員会で質疑が行われ、江崎防衛庁長官が閣議において懲戒免職処分を含めた厳重な処分をするよう指示した旨発言したことが報道された。

9  その後も控訴人の所在が不明のまま、前記休暇終了時刻(帰隊時刻)である昭和四七年四月三〇日午後一〇時を経過しても、控訴人は帰隊しなかった。

I司令は、控訴人に対する懲戒手続を開始することとし、同年五月一日、施行規則第七三条に基づき、控訴人に対する同日付け被疑事実通知書を第二高射群防衛班一等空尉Lに命じて前記連絡先住所に使送させた。L一尉は、控訴人に右通知書を手交すべく控訴人の家族に控訴人の所在を尋ねたが、家族もその行方について案じている状況であり、その所在は不明であった。このため、L一尉は、懲戒手続に関する訓令(昭和二九年八月二八日防衛庁訓令第一一号)第九条所定の「被疑事実通知書は、被審理者が勤務の場所を離れ居所が明らかでない場合には、当該被審理者の家族に送達するものとする。」との規定に従い、右通知書を控訴人の実父Mに手渡して帰隊した。

10  I司令は、控訴人の所在について確認することができず、所在不明であったため、施行規則第八五条第二項の「当該隊員の所在が不明のとき」に該当すると判断し、同規則第七一条以下の手続によらずに懲戒手続を進め、昭和四七年五月四日付けで控訴人を懲戒免職処分にすることを決定し、同日、控訴人の両親宅に懲戒処分宣告書が送達された。

二  自衛隊法上の懲戒事由該当性の有無

1  控訴人の職務離脱行為について

(一) 前記第二の二の争いのない事実4のとおり、控訴人は、昭和四七年四月二三日午前八時から同月三〇日午後一〇時までの間の年次有給休暇を承認されていたところ、帰隊時刻である同月三〇日午後一〇時を超えて同年五月三日まで所属長の承認を受けることなく帰隊しなかったのであるから、自衛官の営内居住義務(法第五五条、施行規則第五一条)及び隊員の職務遂行義務(法第五六条)に違反したことが明らかである。したがって、控訴人の右行為は、法第四六条第一号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」の懲戒事由に該当するということができる。

(二) これに対し、控訴人は、控訴人が休暇の延期を所属長に申し出ていたのに、所属長は殊更その承認をしなかった旨主張する。

証拠(乙第二六号証の一、二)及び弁論の全趣旨によると、控訴人が、昭和四七年四月三〇日八時から一二時までの間の東京中央郵便局の消印がある速達郵便で、福岡県α基地航空自衛隊第二高射群第五高射隊Jあてに、「一身上の都合」を理由として「昭和四七年四月三〇日二二時より昭和四七年五月三一日二二時まで」の年次有給休暇の申請書を郵送したこと、右郵便は翌五月一日にγ郵便局に到達したこと、右休暇届及び封筒には控訴人の連絡先等の記載が全くなかったこと、右休暇申請に対し、J隊長は、同日、休暇申請を不承認と決定し、「休暇は許可しない。直ちに帰隊せよ。」との電報を控訴人の同年四月三〇日までの休暇期間中の前記連絡先にあてて発信したこと、以上の事実が認められる。

ところで、当時の郵便事情では、控訴人が東京で右速達郵便を投かんした同年四月三〇日のうちに右速達郵便が福岡県α基地に配達されることは困難であったと推認されるから、右郵便による休暇申請は事後の休暇申請とならざるを得なかったと認められるところ、証拠(乙第二六号証の一、二)及び弁論の全趣旨によると、自衛官の勤務時間及び休暇に関する訓令(昭和三七年一〇月二三日防衛庁訓令第六五号)により、あらかじめ休暇の申請ができなかった場合には「病気、災害その他やむを得ない事由」を付することを要するものとされているところ、前記休暇申請書にはその記載がなかったこと、控訴人の昭和四七年四月三〇日現在の年次有給休暇の残日数は一五日であったことが認められる。また、前記一9に認定したとおり、I司令は、控訴人に対する懲戒手続を開始することとし、同年五月一日の時点で、施行規則第七三条に基づき、控訴人に対する同日付け被疑事実通知書をL一尉に命じて前記連絡先住所に使送させていることなどに照らすと、J隊長が控訴人の休暇申請を許可しなかったことについては理由があるというべきである。

そうすると、控訴人からの休暇の延期申請に対し、所属長が殊更その承認をしなかったということはできず、したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。

(三) また、控訴人は、当時、自衛隊の方針に反する考え方を主張したり、あるいは隊員の人権擁護を主張する者に対しては、隊内において一種のリンチが加えられる状況があり、控訴人がそのまま帰隊したならば激しいリンチにさらされたであろうことは十分に予測されたことであるから、控訴人が三日間帰隊しなかったという外形のみを取り上げて、営内居住義務違反及び職務遂行義務違反として、法第四六条第一号に該当すると判断したのは、法の解釈適用を誤ったものである旨主張し、控訴人本人尋問の結果中には、控訴人のようにいわゆる反戦行動をした自衛官が帰隊したらリンチを加えられる状況があったとの供述部分がある。

しかしながら、仮にそのような状況にあったとしても、右(二)のとおり、控訴人は、前記帰隊時刻経過後に到着する形で、しかも不適式の休暇申請書を郵送したのみで、所属長に何の連絡もなく帰隊しなかったのであるから、控訴人の職務離脱行為が右懲戒事由に該当するとの判断を左右することはできない。

2  控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為について

(一) 前記一4及び6に認定したとおり、控訴人らは、E以外は自衛隊の制服制帽を着用の上、あらかじめ防衛庁の近くの俳優座で報道関係者を集めて記者会見を行い、その報道関係者が同行していることを認識しながら、右俳優座から徒歩で防衛庁正門に赴き、同行して来た報道関係者や通行人らが多数集っている中で、控訴人ら六名が正門外側で正門に向かって一列横隊に並び、Aが全員を代表して自衛隊沖縄派兵の中止等を訴える内容の全員の官職、記名のある前記「要求書」を読み上げるなどしたものであり、また、四・二八中央総決起集会において、同じく制服制帽を着用して演壇に立ち、多数の参集者に対して、右「要求書」及びこれとほぼ同趣旨の前記「声明」を読み上げ、自衛隊の沖縄派兵等に反対又はこれを阻止することを訴える演説を行ったものであって、いずれも自衛隊の服装や官職を利用してそれによる宣伝効果を意図したものであるとの評価を免れない上、控訴人らが不特定多数の者に対して読み上げた「要求書」及び「声明」の内容並びにその演説における控訴人らの主張は、前記一1及び2に認定したとおり議会制民主主義の政治過程を経て決定された自衛隊の沖縄配備及び立川移駐の政策について、「いままさに日本帝国主義が、再びアジア人民への圧迫と殺りくに乗り出さんとしている」「われらは、もはやこの帝国主義支配者どもの横暴と圧政に、絶対に耐えることはできない」「帝国主義佐藤政府は、われらを侵略と人民弾圧のせん兵とせんがために、四次防と沖縄派兵を必死になって強行しようとしている」(以上いずれも「声明」)、「わが自衛隊(は)…あらゆる形をとって、沖縄民衆への圧迫を強いている」(「要求書」)などの一方的かつ過激な表現をもって公然と批判するとともに、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにし、あるいは、「自衛隊兵士は、…兵営監獄の中で抑圧され、差別され、あらゆる屈従を強いられてきた」(「声明」)、「自衛隊の侵略軍隊への強化は、われわれにあらゆる屈従を強制しようとしている」(「要求書」)などとして自衛隊を誹謗中傷するものであるということができる。自衛官が、その服装や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙って、国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにすることは、本来政治的中立性を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき義務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため職務の能率的で安定した運営が阻害され、ひいては議会制民主主義の政治的過程を経て決定された国の政策遂行にも重大な支障を来すおそれがあるものというべきである。しかも、前記のような表現をもって隊員が自衛隊を公然と誹謗中傷することは、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものといわざるを得ない。

したがって、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会で行った行為は、法第四六条第二号の「隊員たるにふさわしくない行為」に該当するということができる。

(二) 控訴人は、法第四六条第二号の規定を憲法第一四条の平等原則に反しないように解釈するためには、国家公務員法第八二条第三号及び地方公務員法第二九条第一項第三号の各規定と同様に、道徳的、社会的非難に値する「非行」という絞りをかけるべきであり、法第四六条第二号の「隊員たるにふさわしくない行為」とあるのを「隊員たるにふさわしくない非行」と解釈しなければならない旨主張する。

しかしながら、「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」ことを任務とするものであり(法第三条)、この自衛隊の任務及び組織の特性に鑑みると、自衛隊は、行政組織の中でも特に政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負うものであり、隊員相互の信頼関係を保持し、厳正な規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であることから、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱し、隊員としての信用を傷つけ、又は自衛隊の威信を損なう行為をもって懲戒の対象とし、「隊員たるにふさわしくない行為」と規定したものと解される。

したがって、法第四六条第二号を国家公務員法及び地方公務員法の前記各規定と同様に読み替えて解釈しなければならない理由はないというべきである。控訴人の主張は控訴人独自の見解であって採用することができない。

(三) 控訴人本人尋問の結果中には、自衛隊の沖縄配備及び立川移駐については、当時の国民の一部にこれに反対する意見があり、控訴人らがこれに同調して前記のような行動に出たのは、まさに正当な行為である旨の供述がある。

しかしながら、控訴人らが昭和四七年四月二七日に防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為は、前記認定のとおり、自衛隊の服装や官職を利用し、それによる宣伝効果を意図しつつ、議会制民主主義の政治過程を経て決定された自衛隊の沖縄配備及び立川移駐の政策について、一方的かつ過激な表現をもって公然と批判し、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにするとともに、自衛隊を公然と誹謗中傷したものであり、かかる行為は、本来政治的中立性を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき義務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、職務の能率的で安定した運営を阻害するとともに、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものといわざるを得ないから、法第四六条第二号の「隊員にふさわしくない行為」に該当するものというべきことは前記説示のとおりであって、右判断は、控訴人が述べるような背景事情や控訴人らがかかる行動に出た動機によって左右されるものではない。

三  本件懲戒免職処分の相当性

隊員につき、法に定められた懲戒事由があった場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶべきかは、懲戒権者の裁量にゆだねられているものと解されるところ、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為は、前記認定のような内容、態様やその社会に及ぼした影響等に照らし、到底無視することができない著しい非違行為であるといわなければならず、また、控訴人の職務離脱行為も、自衛隊員として著しい任務違反であることはいうまでもない。

以上の諸点を考慮すると、控訴人に対する本件懲戒免職処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したものと認めることはできない。

四  控訴人主張の違法事由について

1  憲法第九条違反の有無

控訴人は、自衛隊は憲法がその保持を禁じた「陸海空軍その他の戦力」に該当するところ、いわゆる反軍闘争を行った控訴人を反戦自衛官であるがゆえに自衛隊から放逐する本件懲戒免職処分は、自衛隊の違憲性を助長する行為にほかならず、憲法第九条に違反する旨主張する。

しかし、控訴人の右主張は、違憲の主張に名を借りて、本件懲戒免職処分の不当をいうものにすぎず、採用の限りでない。

2  憲法第一六条違反の有無

控訴人は、控訴人が防衛庁正門付近で一〇項目の要求を掲げて防衛庁長官に面会を求めた行為は、憲法第一六条で保障されている請願権の行使である旨主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、控訴人らが防衛庁正門付近で読み上げた前記「要求書」の内容は、議会制民主主義の政治過程を経て決定された自衛隊の沖縄配備及び立川移駐の政策について、「わが自衛隊(は)…あらゆる形をとって、沖縄民衆への圧迫を強いている」などの一方的かつ過激な表現をもって公然と批判し、あるいは、「自衛隊の侵略軍隊への強化は、われわれにあらゆる屈従を強制しようとしている」などとして自衛隊を誹謗中傷するものであり、また、右「要求書」において要求している事項は、自衛隊の沖縄派兵及び立川移駐の即時中止のほか、(不当なとの限定付きではあるものの)命令拒否権の確立、幹部・曹・士の一切の差別の廃止、勤務時間外のあらゆる拘束の廃止、労働者・市民としてのすべての権利の付与など、前記自衛隊の任務及び法第五章第四節の定める自衛隊員の服務の本旨(法第五二条)や遵守すべき義務(法第五六条ないし第五八条など)と相容れないものである上、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為は、自衛隊の服装や官職を利用してそれによる宣伝効果を意図したものであるとの評価を免れないから、右行為をもって請願権の行使とみることはできないというべきである。そうすると、四・二八中央総決起集会において控訴人らが右「要求書」を読み上げるなどした行為についても、前日の請願権行使について報告とみることもできない。

したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

3  憲法第二一条違反の有無

控訴人は、控訴人が四・二八中央総決起集会において行った演説は、憲法第二一条が保障する言論表現の自由に含まれるものであるから、これをとらえて懲戒免職処分にしたのは同条に違反する旨主張する。

憲法第二一条の保障する表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであり、これをみだりに制限することは許されないが、表現の自由といえども国民全体の共同の利益を擁護するために必要かつ合理的な制限を受けることは、憲法の許容するところであると解される。そして、行政の中立かつ適正な運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、国民全体の共同の利益にほかならないものというべきところ、前記のような自衛隊の任務及び組織の特性に鑑みると、隊員相互の信頼を保持し、厳正な規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であり、それによって、国民全体の共同の利益が確保されることになるというべきである。

したがって、このような国民全体の利益を守るために、隊員の表現の自由に対して必要かつ合理的な制限を加えることは、憲法第二一条の許容するところであるということができる。

前記認定のとおり、控訴人が四・二八中央総決起集会において行った行為は、現職の自衛官が、その服装や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙って、国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにしたものであって、本来政治的中立性を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき義務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため職務の能率的で安定した運営が阻害され、ひいては議会制民主主義の政治的過程を経て決定された国の政策遂行にも重大な支障を来すおそれがあるものというべきである。しかも、前記のような表現をもって隊員が自衛隊を公然と誹謗中傷することは、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものといわざるを得ない。右の弊害を防止するためにこれを懲戒処分の対象とするときは、控訴人の表現の自由が一定の制約を受けることにはなるが、それは、隊員の身分を保有する限りにおいて、その職務を適正に遂行するために課せられた制約にすぎず、右の弊害の重大さと比較すれば、利益の均衡を失するものとはいえない。

そうすると、控訴人の右各行為を懲戒処分の対象として、その表現の自由を制約することは、前記のような国民全体の利益を守るために必要かつ合理的な措置であるということができ、これをもって憲法第二一条に違反するものとはいえない。

したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。

4  憲法第一九条違反の有無

控訴人は、本件懲戒免職処分は控訴人の思想自体を問題とし、これを忌み嫌い、その思想の持ち主である控訴人を自衛隊から排除するために行われた処分であるから、憲法第一九条に違反する旨主張する。

しかし、本件懲戒免職処分は、控訴人が自衛隊員として遵守しなければならない義務に違反して自衛隊の沖縄配備及び立川移駐に関する政府の政策に反対し、自衛隊を誹謗中傷するなどしたことが「隊員たるにふさわしくない行為」に当たるとして行われたものであって、控訴人の思想自体を対象としてされたものではないから、控訴人の右主張は採用することができない。

5  憲法第一四条違反の有無

(一) 控訴人は、法第四六条第二号は「隊員たるにふさわしくない行為」とし、国家公務員法第八二条第三号の「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」や地方公務員法第二九条第一項第三号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」の規定と比べて処分対象の範囲を拡大し、同じ公務員の中において不合理な差別をしている点において、憲法第一四条に違反し無効である旨主張する。

しかしながら、前述のとおり、法第四六条第二号は、自衛隊の任務(法第三条)及び組織の特性に鑑み、隊員相互の信頼関係を保持し、厳正な規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であることから、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱し、隊員としての信用を傷つけ、又は自衛隊の威信を損なう行為をもって懲戒の対象とし、「隊員たるにふさわしくない行為」と規定したものと解されるのであるから、一般の国家公務員及び地方公務員と異なる点があるとしても、合理的根拠に基づくものというべきであって、憲法第一四条に違反するものとはいえない。

したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

(二) また、控訴人は、控訴人が職務を離脱したのはわずか三日間であり、これをもって懲戒免職処分にしたのは、一般公務員の場合に比べて著しく平等に欠けるものであって、憲法第一四条に違反する旨主張するが、本件懲戒免職処分は、控訴人の職務離脱行為のみを対象としているわけではなく、右行為のほかに、控訴人が防衛庁正門付近において行った行為及び四・二八中央総決起集会において行った行為を処分の対象としているのであるから、控訴人の右主張はその前提において誤っており、採用することができない。

6  憲法第三一条違反の有無

(一) 控訴人は、本件懲戒免職処分は、控訴人に一切の弁明の機会を与えずに行われたものであるから、憲法第三一条の適正手続の保障に違反する旨主張する。

自衛隊員に対する懲戒処分については、施行規則第七節にその手続が規定されており、それによれば、法第四六条に規定する懲戒処分は、法第三一条第一項の規定により懲戒処分の権限を有する者(懲戒権者)が本節の規定に従って行うものとされ(同規則第六六条第一項)、懲戒権者は、隊員に規律違反の疑があると認めるとき、又は同規則第六八条の規定による懲戒の申立を受けたときは、直ちに部下の隊員に命じ、又は特に必要がある場合は他の適当な隊員に委嘱して、規律違反の事実を調査することを要し(同規則第六九条)、その調査の結果、規律違反の事実があると認めたときは、当該事案につき審理を行わなければならないものとされている(同規則第七一条)。そして、審理を行おうとするときは、当該審理に付せられる隊員(被審理者)に対し、規律違反の疑がある事実を記載した書類を送達することを要し(同規則第七三条)、被審理者が申し出たときは、隊員のうちから弁護人を指名しなければならず(同規則第七四条)、懲戒権者は、自ら又は懲戒補佐官(同規則第六七条)に命じて被審理者及び証人の尋問その他の証拠調をすることができ、被審理者及び弁護人は、証人の尋問その他の証拠調を請求することができるものとされている(同規則第七五条)。そして、懲戒権者は、被審理者又は弁護人が供述を辞退した場合など一定の場合を除き、事案の審理を終了する前に、懲戒補佐官を列席させた上、被審理者又は弁護人の供述を聴取しなければならず(同規則第七六条)、事案の審理を終了したときは、すみやかに、当該審理に関与した懲戒補佐官等の意見をきいて、懲戒処分を行うべきか否かを決定し、懲戒処分を行うべきものと決定したときは、その種別及び程度を決定した上、被審理者に懲戒処分宣告書を交付して懲戒処分の宣告を行わなければならないとされている(同規則第七六条、第七七条)。しかし、懲戒権者は、規律違反の疑がある隊員に係る規律違反の事実を調査した結果、規律違反の事実が同規則第八五条第一項にいう「軽処分」をこえる場合においても、その事実が明白で争う余地がなく、かつ、当該隊員が審理を辞退し、又はその所在が不明のときは、第七一条以下の審理に関する規定にかかわらず、懲戒補佐官の意見をきいて、懲戒処分を行うことができるものとされている(同規則第八五条第二項)。

憲法第三一条は、刑事手続に関する規定であって、直ちに行政処分手続に適用があるものではないが、自衛隊員に対する懲戒処分に関する施行規則の前示各規定は、憲法第三一条の趣旨に照らし、その要請を充足しているものと解することができる。そして、一般に、懲戒権者が懲戒処分を行うに当たり被処分者に対し常に弁明の機会を与えなければならないと解することはできないのであって、処分の基礎となる事実が明白で争う余地がなく、かつ、被処分者の所在が不明で告知・聴聞の手続をとることができないような場合には、弁明の機会を与えないで処分を行ったとしても、手続上違法となるものではないと解するのが相当である。

前記のとおり、施行規則第八五条第二項は、隊員の規律違反の事実を調査した結果、「その事実が明白で争う余地がなく、かつ、…当該隊員の所在が不明のときは」、第七一条以下の審理に関する規定にかかわらず、懲戒処分を行うことができる旨定めているが、このような場合には、弁明の機会を与えないで懲戒処分を行ったとしても、憲法第三一条の趣旨に違反するということはできない。本件懲戒免職処分が施行規則第八五条第二項の要件を充たしていることは、後記7のとおりである。

(二) 控訴人は、懲戒免職処分という結論を早急に出すために、控訴人の弁明する権利が侵害されることを知りながら、殊更手続を急いで結論を出したのであるから、憲法第三一条の適正手続の保障に違反する旨主張するが、本件の全証拠を検討しても、控訴人の主張するような事実を認めることはできない。

したがって、右主張は採用することができない。

7  施行規則第八五条第二項違反の有無

(一) 控訴人は、本件懲戒免職処分が施行規則第八五条第二項の要件を充たさない旨主張する。

しかし、前記一5、7ないし10に認定した事実に証拠(乙第一九号証の一ないし四)及び弁論の全趣旨を併せると、I指令は、昭和四七年四月二九日、部下である第二高射群第五高射隊射統小隊長K二等空尉に、控訴人の規律違反被疑事件について事実の調査を命じたこと、前記のようにJ隊長らと共に上京していたK二尉は、右同日、航空自衛隊東京警務分遣隊長Q三等空佐らから、控訴人らが防衛庁正門付近において行った反自衛隊抗議行動事件に関して同警務分遣隊が作成した捜査報告書、現認報告書、現場写真撮影報告書(防衛庁正門前における面会要求状況、「要求書」の朗読状況を撮影した写真に制服制帽姿の控訴人が写っている。)、「要求書」及び「声明」の入手報告書(各写し添付)等の提供を受けるとともに、航空幕僚監部内の会議室において、控訴人の直接の上司である第五高射隊射統小隊本部班長N一等空曹から、(イ)控訴人が同年四月二三日から同月三〇日午後一〇時まで有給休暇取得中であること(控訴人作成に係る休暇申請書及び休暇中の行動予定計画書の写し添付)、(ロ)前記現場写真により控訴人であることを確認したこと、(ハ)四月二八日夜β公園で行われた四・二八中央総決起集会における控訴人らの行動をJ隊長、K二尉らとともに目撃したこと、及び(ニ)その際に控訴人が行った演説の内容等について供述を録取し、参考人供述調書を作成した上、同月二九日付け答申書をもって、I指令に対し、右事実調査の結果を報告したこと、そして、I指令は、控訴人が前記休暇終了時刻後も帰隊せず、控訴人から何らの連絡もなかったことから、控訴人に対する懲戒手続を開始することとし、同年五月一日、施行規則第七三条及び懲戒手続に関する訓令第九条の定めるところに従い、控訴人に対する同日付け被疑事実通知書を控訴人の実父に交付して送達した上、以上の事実経過からして、控訴人の規律違反の事実が明白で争う余地がなく、かつ、控訴人の所在が不明のとき(施行規則第八五条第二項)に当たるものと判断して、同月四日、本件懲戒免職処分を発令するに至ったことが認められる。

そうすると、本件懲戒免職処分は、施行規則第八五条第二項に従って適法にされたものと認めることができ、同条違背の違法があったということはできない。

(二) これに対し、控訴人は、控訴人が代理人として指定したR弁護士を通じて控訴人と連絡することが可能であり、控訴人の所在が不明であるとはいえなかった旨主張する。

乙第二〇号証(東京地方裁判所昭和四九年(行ウ)第一七一号事件のRの証人調書)中には、当時Eの刑事弁護人であったR弁護士が、E及び控訴人ら五名が昭和四七年四月二七日に俳優座から徒歩で防衛庁正門に赴く際に同行し、正門受付でEが警備員から交付を受けた面会票に記入して差し出した際、右面会票と一緒に弁護士の名刺を差し出して自分が五人の代理人であることを口頭で付け加え、その後、庁舎の方から駆け付けてきた責任者と思われる者に対しても、自分は弁護士のRで五人の代理人として付き添って来た旨口頭で告げ、さらに、控訴人らが一列横隊になって「要求書」を読み上げている最中に声を掛けてきた職員の一人に対し、今日は五人の付き添いで来たなどと説明したとの供述記載がある。

しかし、他方、乙第二一号証(前記事件のOの証人調書)、乙第二二号証(同じくPの証人調書)及び乙第二三号証(同じくHの証人調書)中には、Eに面会票を交付しEと応答をした警備員のO、R弁護士と面識があり遅れて正門付近に赴いた防衛庁人事教育局人事第一課のP係長、Eらと応答をしたH係長が、Eらに付き添って来たと思われる私服の者から名刺を受け取ったり、自分が弁護士で五人の代理人であることを告げられたことはないとの各供述記載がある上、仮にR弁護士が防衛庁の職員や警備員に控訴人らの代理人であることを告げたとしても、当時正門付近は、多数の報道関係者や通行人が集っている中で、E及び控訴人ら五名と防衛庁の警備員や職員との間で押し問答が繰り返されている状況下にあり、R弁護士は控訴人らの委任状を提示していないのであるから(乙第二〇ないし第二三号証)、代理人であることの告知としては不十分なものであり、防衛庁の職員や警備員がこれを了知しなかったとしてもやむを得ないものというべきである。なお、証拠(乙第二〇号証)及び弁論の全趣旨によると、R弁護士が、防衛庁長官あてに、自分が控訴人ら五名の代理人であり、五名に対する通知は自分の事務所にしてほしい旨の昭和四七年五月二日付けの通知書を郵送していることが認められるが、右通知書が防衛庁に到達したのは、本件懲戒免職処分の行われた同月四日の夕刻であったことが認められる。

そうすると、仮に控訴人がR弁護士を代理人として選任していたとしても、懲戒権者であるI司令にその旨の通知がされていない以上、同司令が同弁護士を控訴人の代理人であると認識することができなかったというほかないのであって、本件懲戒手続に違法があったとは認められない。

(三) 以上のとおり、本件懲戒免職処分が施行規則第八五条第二項の要件を充たさない旨の控訴人の主張は採用することができない。

第四結論

以上のとおり、控訴人に対する本件懲戒免職処分には何らの違法もないというべきであるから、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がない。

よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第六七条第一項、第六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 魚住庸夫 裁判官 飯田敏彦 裁判官 小野田禮宏)

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